おはよーっと集まってくると、荷物を置いて一目散にお気に入りの木に上り始める子、ザリガニの様子を見に水場へ行く子、木の実や落ち葉を拾い集める子、みんなそれぞれに遊び始めます。保護者の皆さんも、お喋りしたり、子どもたちに手を引かれて茂みに入って行ったり、年上の子たちみたいに木に登りたい小さい子たちを心配そうに手助けしたり・・
朝の穏やかな、思い思いの自由な雰囲気のこの時間が大好きです。
そろそろみんなが集まった頃、やかまし村では朝の会をしています。
ねらいは、まだ小さい子どもたちが
●ここが居場所だと感じる
●ほかの子どもの存在に気づく
●他の人の話しを聞いて興味・関心をもつ
●自分も話してみたいと意欲が湧く
●絵本を読んでもらったり一緒に歌ったり、みんなで面白さや楽しさを分かち合う心地よさを味わう
などなど。
実際、子どもたちは、みんなの前に出て話す特別感をワクワク楽しんでいて、聞いてもらったり、質問されたり、伝わってる〜っていう手応えを感じると、もうすぐにもまた話したい、見せたい、分かち合いたいと率先して前に出ようとします(笑)
また、話してみることで自分の気持ちを意識化するという経験から1日に対して見通しを持つような姿も見られます。
はると(2歳8ヶ月)は入園当初・・泣いてばかりでした。
幼いこともあるし、これまで自分の思いどおりにならないことや葛藤などをそんなに経験していないから、やりたくないことや、行きたくない方向へは歩かずに伏せて泣いたりもしてました。
泣いている はると を受け止めつつ「一人で遠くに行かないでね」「あっちへ行きたいって教えてね」「おかあさんが大好きなんだね」と声もかけたりしていました。
ある朝も、朝の会が始まる頃、そっちには行きたくなくて「わーんわーんわん!」と大きな声で泣いていました。
すると年上の なお や さとしが心配そうにやって来て、しゃがんで はると を見つめていました。
なお(3歳)「ぼくもこういう時あったよ。」
さとし(4歳)「さいしょは さとし もないたときあったよ」
はると は大人に抱かれ膝に乗せてもらって朝の会に参加しましたが、途中で逃げ出して遠くに駆け出し、連れ戻そうと声をかけるとまた「わーんわーん!」と泣いていました。
5月になったある朝、たろう が朝の会で「ぼうをみつけました」なお「お花がさいてたよ」たいち「(ことばはない。ニコニコ松ぼっくりを手に見せる)」
それぞれの発表にみんなが拍手をしているのを泣いている はると がチラッと見ました。
すると、はると は突然目の前の草をむしり歩いて出てきて私の横に立ちました。
「はるとちゃん、お話ししたいの?」と聞くと、もうその草を嬉しそうにみんなに見せてニコニコしていました。
みんなで取り決めた約束では、「話したい人は手を挙げて順番に出てくる」のですが、これまでずっと泣いていた はると がこうして前に出てきた時、それを「ズルイよ!」「順番だよ」と咎める子どもは一人もいませんでした。
はると が「前に出て話したい、参加したい」という気持ちを持っていることの方が大切だと子どもたちもみんなそのまま受け入れ、そのまま私の顔をニコニコ見てから、はると の発表を固唾を飲んで見守ってくれたのです。
はると は握りしめた草を前に突き出したままただニコニコ笑っています。
保育者「これなあに?みつけたの?」
はると「(頷く)」
保育者「よく見せて。わあ、いい匂いがするね。」
はると「(頷く 満面の笑み)」
みんなが拍手してくれました。
はると は満足そうにみんなのところに戻って自ら座ったのです。
7月のことです。
この日から新たに ゆうき が入園しました。
お母さんと離れるのがイヤで全身で抵抗し泣き叫んでいます。
保育者が何を言ってもダメ。
ものすごい力で抵抗します。
こういう時、その子の強い意志を感じて頼もしくなりますが、とにかく
一瞬でもワクワク楽しい時間を過ごしてほしくて、みんなあの手この手で
声をかけたり、石や棒や生き物を見せたりします。
そのゆうき の前に はると がしゃがんで覗き込みました。
まだ幼い はると は言葉は出ないのですが「もにょもにょ」と何やら声をかけています。
私は、 はると が「ぼくも前は泣いてたよ」と声かけてるように感じました。
そして驚いたことにその日からあと、はると がやかまし村で泣くことは一度もなくなったのです。
上の子たちにしてもらったことを、後から入って泣いている友だちの姿を見て、はると は初めて客観的に理解したのかもしれません。
子どもが一皮剥ける瞬間、成長している瞬間を見つけることは、本当になんとも言えぬ幸せな瞬間です。
投稿者:森澤典子
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